黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

ナガサワの竹内開発室長、文具バーで神戸インク開発秘話を語る

2014年6月27日夜、ナガサワ文具センターの全面協力のもと、神戸のバーで開かれた期間限定の文具イベント。この文章はユーストリームでの中継を見聞きしながら、リアルタイムで書いたものである。イベント開始早々の目玉企画で、神戸インク物語の開発秘話が、ゲストの竹内開発室長本人によって語られた。その内容を可能な限り詳しく書き起こしたので速報としてお届けする。

 

 

竹内室長
入社36年
もともと商品開発がしたかった
2年目から企画ばかり
店頭に立ちだしたのがPenstyle DENの設立以降

入社以来好きな仕事ばかりしていた
有名な文具メーカーと商品企画・開発、販売促進

阪神淡路大震災で転機
売場(現場)に戻ろう
気がつけば10年が経った
50歳間近で焦った
入社以来の悲願である神戸発祥の文具を開発したい

写真が趣味
カメラを持って神戸の写真を撮りまくっていた
震災で見る影なくなり落ち込んだ
復興を考え神戸インクを企画

 

六甲グリーンが第1弾
震災の後の片付け
崩れたビルの隙間から見えた六甲山の色
震災の前も後も変わらなかった緑
この色からスタートしなければいけないという感覚
平成7年5月のこと

 

 

第2弾
波止場ブルー
休日、疲れた身体を癒やすために
ポートタウンから船に乗った
何時間かぐるぐる回った
空の青
そのときの写真がある
記憶にも残った

 



第3弾
居留地セピア
光と影のある土地
影の部分が好き

 

 

4〜5ヶ月で3色
この3色が神戸市民に受けた
当時、カラフルな万年筆インクはマイナーだった
黒、ブルーブラック、青ばかり

1年で7色ほど出した
マスコミが食いつく
電話での質問が殺到
口コミだけで広まっていった

商工会議所が出す「神戸商工だより」
神戸インクが掲載された
市の職員や神戸市の企業役員らがこれを見た
この時点で10色
決して満足しなかった
評判良く、気を良くした

2年後、神戸新聞に大きな記事
「街を盛り上げるお手伝い」
次の日から全く知らないお客
おじいちゃん、おばあちゃんから握手を求められた
「ようこんなん作ってくれた」
さらに気を良くして、作り続けた
「まだ作るんか」と言われた
休みの日は全部インクづくりに費やした
カメラを持って市内をうろうろしていた

酒の雑誌で対談記事
この時点で20数色
「ほんまに売れとるんか?」突っ込んだ質問も
また知名度が上がった
一緒に色を考えた
今その色も出ている

毎年、ドラマの生まれるインク
インクを通じてとんでもない方と出会い、
仕事ができる

日本で一番種類の多いインク
色彩雫を余裕で超えて48色
50色までは行くと考えていた
すでに50色目は企画中
9月中には発売できる

インク見本を作るのが大変
毎月のように増やしている
受注生産している側から怒られる
見本は40色ぐらいまでは手書きで作っていた
あまりに大変で辞めた

いろんなことを企画
2012年9月
マウリッツハイス美術館
フェルメールブルー
いきなりオファーがあったわけではない
この年、日本マーケティング大賞に
神戸インクが選ばれそうだった
ひょっとしていくのでは!?
ユニクロに負けてショックを受けた

 


一週間後、朝日新聞社から電話
そして朝日新聞社から青いターバンの色を作ってほしいと言われた
快諾し、作った

翌年
プーシキン美術館展
ジャンヌ・サマリーの肖像から
ルージュの色
ルノワールピンク」
1000個売れた

 


次にターナー
ターナーカフェ」
帆船の絵から茶色を抽出
このインクは苦労した
販売時期も短く、500本限定

 

 

神戸インクの限定版
海外シリーズとして

海外の画家をとりあげたことで
海外からも神戸インクが注目されだした
日本以外で500個売れた
アメリカ(250個)とカナダで半分以上
まさか海外から注文が来るとは
まったく夢にも見ていなかった

北野坂ナイトブルーが国内売上1位
港島アイランドブルー海外売上1位
地域によって色の好みが違って面白い
海外にない色

 

 

 

最近、赤系が売れる
不思議に思って尋ねると、学校の先生
元町ルージュ、岡本ピンクなど
採点に使う
図面チェックに使う建築家も
使い道の情報収集が毎日店頭で

 

 


ほぼ毎日店頭に立つ
仕入れた情報をすべてメモに取った
なんとか50色の目処が立った
ほっとしている

〜ここから質疑応答

Q.名前を付ける上で気をつけていることは?
A.響きやイメージを重視
学生時代、コピーライターに憧れたこともあった
それぞれの土地には、すでに色のイメージがあった
インクを作るときは現地取材を必ずする
多いときは10回以上

Q.初心者に万年筆の選び方を教えて

A.店頭で遠慮なく試し書き
朝から夜までいた人もいる
そのときの竹内さんの台詞
「申し訳ないですけど、ごはんだけ食べに行っていいですか?」→笑い

Q.一番思い入れのある色は?
A.思い入れでは六甲グリーン
面白かったのは有馬アンバー
4日連続で有馬温泉に行った
3日目に背中を叩かれた
先日万年筆を売ったお客だった

Q.一番制作が困難だった色は?
A.水道筋マルシェブルー
灘区の詳しい方と何度も打ち合わせした
マルシェ(市場)の色
どんな色?
幼い頃には行ったことがなかった地域
水道筋は海と山の中間
井戸水で魚や野菜を洗う
そのときの色(野菜と魚の中間)をイメージした
今人気の色、生産が追いつかない
青と緑の中間は微調整が難しい
布引と和田岬の中間が水道筋マルシェブルー
布引は海外でも売れる
エメラルド系は大変人気

 

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Q.文通が好きだが、インクのことで知っておくべきことは?
A.私も文通が好きだった
色で印象がものすごく変わる
最初は普通の青で、慣れたら個性的な色で
色選びは任せてほしい

Q.まだ色は増える?
Q.商品開発で煮詰まったら?
A.できるだけ早く作ります→笑い
他社に真似されたと思われないよう先手必勝で

Q.神戸にはたくさんの色物語
竹内さんにとって神戸の男物語、女物語は?
A.深い質問!
神戸の街は茶色が似合うと昔から思っていた
男性も女性も茶色は神戸らしいと思う
黒より茶色!
青より茶色!

最新情報
東京で9月終わりからチューリッヒ美術館展
神戸では1月
これに関連して、超一流画家に関連したインクを2色出す
青と紫
紫は初!
10月ぐらいに発表か?

Q.最後まできれいに吸入するコツ
A.難しいが、スポイトで吸い上げるのが究極
ただし、古いボトルと新しいインクは混ぜないように注意
鮮度が命
神戸インク同士は混ぜてもOKだが
会社が違う場合は基本的にNG

Q.ダーク系の色を教えて
A.六甲グリーンは常に5位以内に入る人気色

Q.神戸インク売上ベスト5は?
A.1位北野坂ナイトブルー
2位水道筋マルシェブルー
3位六甲グリーン
4位布引エメラルド
5位旧居留地セピア(カリグラフィーをする方に人気)
個人的には塩屋ブルー(明るい青)がお薦め
この色を開発するために明石海峡大橋の上まで登った
風の強い日だったので観光客の予約キャンセルで空きが出て当日行けた

 

 



Q.神戸インクはオファーを受けて作る?
A.有馬アンバーは有馬温泉の一番偉い人に頼まれた
基本的には自分で作りたい色を作る
店頭でお客の好みを聞いてヒントを得る

Q.海外で人気の色は?
A.港島アイランド、布引エメラルド、新開地ゴールド
普通では売れないような色が売れる
日本のランキングとまったく違うのが面白い
北野坂ナイトブルーは海外ではあまり売れない

 


Q.海外でメディアに出た?
A.海外でも万年筆好きが多い
フェイスブックでの交流などもあるみたい
台湾の人は神戸インクファンが多い
毎週のように店に来る
言葉は通じないが、わかったように話している→笑い
毎週、10個ぐらい買って飛行機ですぐ帰る

質疑応答ここまで〜

 

書き起こしはここまで。音声を聞いているだけでも、かなり盛り上がっている様子が伝わってきた。