ラミーのブルーブラックが染料になった今、どのインクに乗り換えるか?
先日、とても残念なニュースが耳に入った。耐水性にすぐれたラミーのボトルインク(ブルーブラック)の製法が変更され、もはや古典インクではなくなっているというのである。これまで、ラミーのブルーブラックはボトルとカートリッジとでインクの成分が異なり、カートリッジは染料、ボトルは古典であることが知られていた。ラミーの古典インクは、他社の古典インクに比べてフローの渋さが際立っていたが、独特の色合いがあることと、低価格であること(50mlで実売価格700〜800円)などから広く支持されていた。
耐水性と色味重視のインク選び
ラミーが作るインクでは唯一古典インクだったボトルのブルーブラックが、染料インクに変わった。これにより、ラミーは完全に古典インクの製造から手を引く。古典インクの愛好家にとって、これほど悲しい出来事はないだろう。一生ラミーのブルーブラックを使い続けるつもりだった俺は、常用インクの乗り換えを余儀なくされた。たとえあの色合いが維持されても、染料インクとなってしまった以上は使い続けることができない。耐水性は非常に重要視しているからである。
ラミーのボトルブルーブラックが染料インクになっていたことが発覚した経緯については、以下のブログ(*1)に詳細が記載されている。それによると、すでに日本でラミーの染料ブルーブラックが出回り始めているようなので、ラミーの古典ブルーブラックにこだわりのある人は、すべての在庫が染料に入れ替わってしまう前に、古い出荷分を手に入れ、ストックしておくべきだろう。
しかしそこまでするのは少数派で、たいていの人は染料になっても気にせず使い続けるか、あっさりと別のインクへの乗り換えるだろう。もっとも、ラミーのボトルブルーブラックが染料に変わったことを知らない人がまだかなりいると考えられる。そういう人は上記の二択を迫られるまで、もう少しの猶予がある。何しろ公式発表がないのだ。
俺は耐水性のないインクを使う気はないので、乗り換えの決意はすぐに固まった。ただ、今後どのインクを使えばいいのかという問題がある。代わりの務まるインクが、そんなに簡単に見つかるはずもない。ラミーのブルーブラックはけっこう気に入っていたので、別のインクを使い始めたところで、「何か違う」という違和感が生じる確率は高い。かといって全く同じ色のインクはないし、ある程度の妥協は必要になる。耐水性のあるブルーブラックのインクといえば、まずは古典インクだろう。あとは染料のくせにやけに耐水性がある(*2)パイロットのブルーブラック(またはブルー)という選択肢もないわけではない。ただ、パイロットのブルーブラックは「ブラック」の要素がどこにあるのかと思うほどに青々としており、好みではない。初めから青のインクとして使うならアリだが、やっぱりブルーブラックはもっと黒いほうがいい。
ラミーが古典から退いた今、残る古典メーカーはペリカン、プラチナ、モンブラン、ローラー&クライナーの4社となった(最近になってローラー&クライナーの「サリックス」と「スカビオサ」が古典インクであることを知った。しかも「スカビオサ」は古典インクには珍しい紫色をしている)。このうちのどれかに乗り換えるのが適当と考えた。
どのメーカーのブルーブラックにするか
さて、一口にブルーブラックといっても、各社それぞれ微妙に違う色を作っている。この4社の古典ブルーブラックのうち、最も青が強いのは間違いなくプラチナのブルーブラックである。爽やかで、軽い。好きな人は好きなのだろうが、個人的にあまり青の強いブルーブラックは好みではないので、プラチナは一番に乗り換え先の候補から外れた。
(プラチナのブルーブラック購入はこちら)
ローラー&クライナーの「サリックス」は、プラチナの次に青が強い。プラチナに比べると落ち着きがあるし、太字の万年筆で書くと濃淡が出てきれい(*3)だが、主力は細字の万年筆のため、このインクを活かすことはできそうにない。よって候補から外れた。残るはモンブランとペリカンである。
(サリックス購入はこちら)
本命のひとつ、モンブランのミッドナイトブルーは、青が弱く、黒が強いブルーブラックである。ただし、それだけではない。ちょっと特殊な色である。やや赤みがかっており、暗い紫色にも見える。まさに「茄子色」という表現がしっくりくる。あえて「ブルーブラック」ではなく「ミッドナイトブルー」とつけられた名前には、他社のブルーブラックと一緒にされたくないというモンブランの意地が見え隠れする。赤みがかっているという点では、たしかに他のブルーブラックとは違う。それのどこが「ミッドナイト」なのかはわからないが、とにかくこのインクは単に青と黒での構成ではない。初めはこのミッドナイトブルーが乗り換え先として有力だったが、次第に赤みが気になり始めて、ついに候補から外れた。
(ミッドナイトブルー購入はこちら)
となると、残るはペリカンのブルーブラックである。ラミーに比べるとやや青が強い。その代わり、黒も強い。消去法的に、一番ラミーに近いのはこのインクだろう。これから使い続けるなら、この色が一番いい気がした。価格も、62.5mlで840円とあらゆる万年筆インクの中で指折りの安さである。
(ペリカンのブルーブラック購入はこちら)
ペリカンのブルーブラックを買った
というわけでペリカンのブルーブラックを買ってきた。箱は万年筆のと同じ、濃紺に青のデザイン。ドイツのメーカーだけに、ドイツ語と英語での表記が並ぶ。ブラウシュバルツとはドイツ語でブルーブラックのことだ。
ボトルは、正面から見ると扇子を広げたような形をしているが、インクを最後まで効率よく吸入できるよう、合理的に設計されている。蓋にはおなじみ、ペリカンの親子があしらわれている。開けてにおいを嗅ぐと、かすかに薬品のようなにおいがする。嗅ぎ比べてみたが、ラミーと同じようなにおいだった。
耐水実験
ここからは独自の耐水実験。ラミーのブルーブラックと、パイロットのブルーブラック、そしてペリカンのブルーブラックを書き比べてみた。パイロットの青さが際立っている。ラミーとペリカンはほとんど変わらないが、ラミーのほうが青が弱いので、その分グレーがかっているように見える。
耐水性をチェックするために、それぞれのインクで丸を書き、5分ほど置いてから、水に濡れたガラスペンの先で5秒間、強く擦った。結果はどのインクも全く水に流れないというわけではなかったが、もしこれが一般的な染料インクであれば、ほとんど原形を留めなかっただろう。この中では唯一、ラミーのブルーブラックが驚くほどの耐水性を示した。やはり優秀である。
今回、乗り換え先として決定したペリカンのブルーブラックは、かなり水に流れてしまっている。ところが、この結果は、ペリカンのブルーブラックが「耐水性を備えていない」という結論に直結しない。というのも、古典インクにも染料は多少なりとも含まれているのであり、この実験で水に流れたのはその染料であると考えられるからである。この考えが正しければ、たとえ青い染料がすべて流れてしまっても、それ以外の成分による筆跡がきちんと残る。であるならば、乗り換え先としては問題ない。
というわけで、いま使っているラミーのブルーブラックを使い切った段階で、ペリカンのブルーブラックに乗り換えることで変わりはなかった。ラミーのブルーブラックがまだ30mlぐらいはあるので、ペリカンを使い始めるのはまだかなり先になるだろうが、安心して残りを使い切ることができそうだ。
しかしながら、ラミーのブルーブラックは染料すらほとんど水に溶けることがなかった。先の画像を見ての通り、ペリカンやパイロットに比べると滲みの少なさは圧倒的といってよい。この結果は驚異的である。やはり、ラミーの古典インクはすばらしい出来栄えだった。これがなくなってしまうのは、たいへん残念なことである。できることなら、このインクをずっと使い続けたかった。
[1] LAMYのボトルのブルーブラックが古典じゃなくなっていた件(「趣味と物欲」より)
http://d.hatena.ne.jp/pgary/20130719/p1
[2] 紙に含まれるセルロースと結合しやすい染料を使っているのではないかという見方がある。
http://ochsk.blog.fc2.com/blog-entry-8.html
このエントリーのコメント欄参照。
[3] 雑記−38。(「Storia Di Un Minuto」より)
http://ship-of-fools.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-6ddf.html