黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

Vコーン最強伝説

万年筆にハマるまでずっと、ボールペンを使っていた。ボールペンには油性と水性があるが、俺は昔から水性派である。中でもゲルインクが好きで、市場にあるゲルインクは全て調査済み。ゲルインクは筆圧の低い人にうってつけで、紙の上を滑らせるだけでだくだくとインクが出てくる様は、さながら万年筆のようであった。

 

俺が一番よく使ったゲルインクボールペンといえば、間違いなくハイテックである。自分の好きな色を組み合わせて作る「ハイテックコレト」の替芯はたぶん100本は買った。なぜそんなに買ったかというと、学生時代、文字通りアナログ体質の会社で事務系のアルバイトをしていたからだ。報告書を仕上げたりメモを取ったりするのに全部ボールペンを使っていたため、出勤ごとの筆記量が半端ではなかった。2日で1本が空になったこともある。空になったからといっていちいち芯を交換している暇がないので、4本の芯が入る軸に黒・黒・赤・青というように黒を2本入れておき、インク切れがおきてもすぐにもう1本の黒で対応できるようにしていた。なお、会社の備品は油性インクしかなかったので、自分の懐からお金を出してもゲルインクを使った。

 

ゲルインクで書くのはとても気持ちがいいのだが、ひとつだけ欠点があった。耐水性である。ハイテックのような染料系は言うに及ばず、耐水性の高さを売りにするサラサやシグノといった顔料系でさえ、水に弱い。耐水性の有無の基準として、俺などは《乾いた文字を濡れた指で擦って伸びなければOK》と決めているのだが、この方法で試験して合格といえるものは皆無で、これはゲルインクの性(さが)なのだと思うより仕方がなかった。だから水に濡れるおそれのある書類は、嫌でも油性インクを使った。

 

万年筆を使うようになってもインクの耐水性は必要だと信じていたので、半分はそれが原因で古典インクを使うようになった。正直、日常生活で字が水に濡れるようなことはほとんどないのだが、かと言って全くないわけではない。数年に一度ならきわめて稀に発生するエラーとして看過するとしても、実際はもっと頻度が高い。要は、ほとんど濡れないが、予期するよりは濡れるのだ。だから耐水性があるという安心感は全く大きい。迷わず使える。しかし水性であるゲルインクを使う以上は、水に弱いのを受け入れるしかなく、ハイテックは耐水性を完全に諦めて使っていた。

 

 

数年ぶりにVコーンを買おうと思ったきっかけはこちらのブログ。

学生時代、書道教室で硬筆をやるときに使ったのがこのペンなので、書き味についてはよく知っていた。ただし、耐水性については全く知らず。耐水性があるとはどこにも書いていないし、見た目からしていかにも水に弱そうな感じがするので、このペンは実験すらしていなかった。あの書き味で耐水性が高いということになれば、最強のボールペンになり得る。早速ヨドバシで購入した。1本86円だった。

 

Vコーンの最大の特徴は「直液式」であるということ。普通、ボールペンは芯の中にインクが入っていて、その芯の中でインクは固まっているかのように見える。その芯を軸にセットして書く。これが一般的なボールペンの仕様である。一方、「直液式」とは書いて字のごとく、“直”接、“液”(であるインク)が軸の中に入っている。いわば、芯のまま書いているようなものだ。Vコーンの軸は透明なので、軸を傾けると中が透けて見え、インクがちゃぷちゃぷと動いているのがわかる。直液式は万年筆でいえば吸入式と構造が似ている。日本筆記具工業会によると、直液式にはジャバラ式とバルブ式の2種類があるらしい。Vコーンはペン先の根本からギザギザした部品見えるので、ジャバラ式だろう。このジャバラはインクの流量を調節する役割を果たしているという。もはや完全に万年筆のペン芯の構造と一致する。あり得ないことだが、これでもし好きなインクを吸入できるようになんかなったりすると、万年筆の立場は本気で脅かされるに違いない。なんとかしてVコーンに自分でインクを入れる方法はないのだろうか。

 

マーキングペンのしくみについて

 

さて、肝心の耐水性だが、黒と赤を買ってきたので、両方を使って試験してみた。上が書いた直後で、下が濡れた指で擦った後の写真。見ての通り、黒はすばらしい結果だった。こんなに水に強いゲルインクは見たことがない。文具王が「マストアイテム」と語るのも頷ける。ただ、残念なことに、赤はかなり滲んでしまっている。全色耐水というわけではないようである。

 

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自分で実験してみて、黒はびくともしない耐水性を持つが、赤はそうでもないということがわかった。青については、未実験のため不明。いやしかしこの黒は本当にすごい。宛名書きにも全然使えるレベル。

 



なお、動画の通り、紙によっては滲む。あと、裏写りも多少あるので、気になる人は注意したほうがいい。インクのフローはきわめて潤沢だが、書き味はほんの少しカリカリと引っかかるような感触がある。極細〜細字の国産万年筆で書いているようで、俺は好きだ。

 

 

Vコーンを買うなら黒である。

 

10月19日追記

恥ずかしながら、ド派手な勘違い(というより思い込み)を2つもしていたことが、読者からのご指摘により判明した。内容は以下の2つ。

・ボールペンには水性と油性があり、水性の中にゲルインクというジャンルが含まれる

・Vコーンはゲルインクのボールペンである

これはどちらも誤謬であり、訂正しなければならない。ゲルインクは水性と油性の特徴を併せ持つ、(比較的)新しいインクのことであり、また、Vコーンは水性染料インクのボールペンである。