黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

「万年筆は寝かせて書くもの」か?

 
 
 

万年筆は寝かせて書くもの、というのは半分正解であって半分正解でないと思っている。こういう記事があった。

マンボウの昼寝
「万年筆の筆記角度 再び」
http://plaza.rakuten.co.jp/myaa0218nyan/diary/201311120000/

たしかに、万年筆はやや寝かせて書く人がほとんどであるように思う。あまりぴんと立てて書く人は見たことがないし、もしそんな人がいたら万年筆の使い方を心得ていないのではないかと勘ぐってしまう。パイロットの公式サイトにもあるように、「書く際は、ペン先の刻印のある面を表向きにして、ボールペンよりもやや寝かせ気味に」する。そうすることで、ペン先にあるインクの通り道が紙に接触し、するすると字が書けるのである。

では、どれくらい寝かせればいいのか。パイロットは、「ボールペンよりもやや寝かせ気味」と言うに止まり、具体的な角度に言及していない。そこで、自分の万年筆(M400、プロギア、#3776の3本)を使って試してみた。その結果、ほぼ垂直に立てて書いても、ほぼ水平に寝かせて書いても、ちゃんと書くことができたのである。

どの角度でも書ける、というのは少し意外だった。あまりぴんと立てるときちんとインクが出てこないのではないかと思ったが、予想に反して、まっすぐの状態でもきちんと書けたからだ。3本ともペンクリニックで調整済みだったという事情もあるが、よほど下手なペン先でない限り、どの角度でも書けるのではないかと思う。

ではなぜ、万年筆はやや寝かせて書くのがふつうなのか。これは思うに、ペンを持つ位置が関係している。まず万年筆の特性として、ペン先(ニブ)がボールペンのペン先や鉛筆の芯に比べて長い。1cm以上のものがほとんどではないだろうか。そのため、ニブのすぐ上を持ったとしても、ニブの長さの分だけ、ボールペンや鉛筆などに比べて、どうしても長めに持っていることになる。長く持てばそれだけ、ペンを寝かせて書くことになる。

さらに、重量・重心の問題がある。ボールペンや鉛筆は非常に軽量であるため、持つ位置によって重心のバランスが変化することは少なく、ペン先のすぐ上を持って書いても安定していた。一方、万年筆は樹脂や金属を使用したパーツからなり、ある程度重量がある上に、持ち手を少し変えたり、キャップを尻軸に付けたりするだけで、重心のバランスが大きく変わることが少なくない。そして重心はもともと、やや上にある。

ペン先が長いこと。重量が大きく、重心がやや上にあること。これらの理由から、万年筆はやや寝かせて書くのが正しい。

とはいえ、中にはうんと寝かせて書く人や、反対にぴんと立てて書く人もいるのは事実。そういう持ち方が間違っているわけではないし、それはそれでアリだ。個人の癖に合わせて調整された万年筆を使えば、何の問題もない。だから「万年筆は寝かせて書くもの」という言い方は、半分正解であって、半分正解でない。

もちろん、同じ「筆」でも万年筆と毛筆は全くの別物。毛筆は筆先がしなるので、インク(墨)の供給量は角度に関わらず一定になる。また、毛筆は大筆と小筆とで持ち方が違う。小筆はボールペンなどと同様、軸のほぼ一番下を3本の指でやや寝かせて持つが、大筆は軸の一番下からちょっと上のところを、4本の指で垂直に立てて持つ。なので筆といっても大小で違いがあり、一概にはいえない。

ペンを長く持つのと、短く持つのとでは字の形が違ってくる。俺は短く持つほうがボールペンと同じ感覚で書けて理想的なのだが、プロギア以外は重心が高すぎるので、キャップを外して書くか、無理して長く持つしかないのがもどかしい。