黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

ERATOの完全ワイヤレスイヤホン「VERSE」

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今年2月、新しいイヤホンを買った。ERATOの完全ワイヤレスイヤホン「VERSE」である。名高い「Apollo7」の後継機、というよりは廉価版のようだが、十分に考えて買った甲斐があって、かなり気に入っている。

 

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これまで使ってきたのはソニーの有線イヤホン「MDR-EX650」で、これは潰れても同じ物を買い直すほど好きだった。癖のないクリアな音づくりで、こもった感じがない。低音も高音もよく出て、立体感がある。これといった不満はなかった。というより、今でもない。

 

それでも買い替えを考えるようになったのは、ソニーが「WF-1000X」を発表したからだ。すでに有線イヤホンでソニーの音質には信頼を置いていたので、音質が同等以上でワイヤレスになるなら好都合と考えた。WF-1000Xが発売されると、すぐヨドバシに現物を見に行ったりした。

 

ところが、WF-1000Xを買うことはなかった。理由はいくつかある。まず、Bluetoothの接続が安定しないような感じがした。ヨドバシで試しに聞かせてもらったとき、片耳しか音が出なかった。たまたまその個体だけ不調だったかもしれないが、不安は残った。両方聞こえたら、きっといい音だったに違いない。次に、大きさがもう少しコンパクトであってほしかった。ケースがかなり大きいし、イヤホンそれ自体も装着時に耳から大きくはみ出す。ケースの大きさについては、なぜそこまで大きくないといけないのかというほどで、そのへん(の美意識)が徹底していないのは理解できない。最後に、値段がちょっと高い。

 

それに比べ、アップルの「AirPods」はさすがにiPhoneとの接続で右に出るものはないし、コンパクトさも随一である。値段もまあ手頃だ。音質もそこそこいいという噂を聞く。そういう意味ではWF-1000Xにあるようなデメリットがない。ただ唯一気になる点が、いわゆるオープンエアー型であるために比較的遮音性が低いということ。そのほうがいいという人もいるだろうが、自分は周りの音を断ち切ってくれるほうが好きなので、残念ながらAirPodsもナシということになった。「耳からうどん」と揶揄される見た目は慣れれば大丈夫そうだが、自信はない。

 

それでいろいろ調べた結果、VERSEに辿り着いた。コンパクトなデザインと価格でまず目に留まり、ヨドバシに行って試しに聞いてみて及第点だったので購入した。肝心の音は、MDR-EX650(ソニー)と明らかに違った。クリアな印象のソニーに比べ、VERSEはかなり低音寄りだ。クラシックで聞き比べるとそれが顕著にわかる。たとえばモーツァルトの「フィガロの結婚」では、高音のバイオリンの存在感がまるで違う。MDRでは聞き取れるというレベルを超えて、弦の張りだとか、音の艶めきさえ感じるのに対し、VERSEでは“ちゃんと聞こえる”という範疇に留まり、存在感が周りの音に埋没した感じがある。その代わり、全体としての重厚感や臨場感はVERSEが頭一つ出ている。タイプの違う音なので良し悪しは判断しにくいが、静かな場所で座って聞き比べた限り、バランスの取れたソニーのMDR-EX650のほうが、じっくり味わうには適していると思う。じゃあなんで買い替えたのかという話になるが、VERSEはソニーほどではないにしろ、ワイヤレスでここまで聞けたら満足すべきで、あとはワイヤレスであることの恩恵をエンジョイすればいいと思ったからだ。たしかにソニーにしとけば音質はすばらしかっただろうが、音質を取る代わりにその他諸々を捨てることはできなかった。

 

数ヶ月使って感じるのはまさにワイヤレスの便利さだ。コードが引っかかって耳から外れることもなければ、鞄の中で絡まることもない。iPhoneを置いたまま別の部屋に移動しても聞ける。音楽を聞きながら用事するのにも手元にコードが来ないので邪魔にならない。コードが服などに擦れることによって発生するノイズがない。片耳だけでも聞ける。とにかくいいことしかない。強いて言えば、充電が切れたら使えないとか、紛失しやすいというくらいのものだ。

 

VERSEの音はまあまあだ。若干こもる感じがしなくもないが、十分許容範囲だ。先程も述べたように低音がよく響いて迫力があるので、こもりは補って余りある。電車の中など外出先で聞くには全く問題ない。

 

バッテリー寿命もさほど短いとは感じない。ケースに入れているだけで充電され、ケース自体の充電さえ忘れなければ、いつでも聞ける。

 

動画では音がコンマ数秒遅れる問題があるが、思ったよりは気にならない。映画やドラマはスピーカーで音を出すからだ。

 

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接続のしやすさも気に入っている。およそ数秒で聞く準備ができる。まずケースの蓋を開け、イヤホンを1、2回揺らしてから取り出す。そうすると電源が入る。耳に装着し、左のイヤホンのボタンを1回押すと、「Headset connected.」と聞こえ、これで左右のイヤホンのペアリング(接続)が完了したことになる。その直後には「Play connected.」と聞こえ、イヤホンとiPhoneのペアリングが完了する。それだけである。いちいちiPhoneBluetoothの画面を開いてイヤホンを接続する作業は最初の1回だけで、2回目からは今説明した通りボタン1プッシュで自動的に接続される。

 

操作コマンドも一通り揃っている。左右イヤホンそれぞれにボタンが一つ付いていて、押し方によっていろんな操作ができる。つまりiPhoneはポケットに入れたまま、イヤホンだけである程度操作が完結する。たとえば、どちらか1回押すと曲が停止/再開する。左を2回押すと音量が下がり、右を2回押すと上がる。左を長押しすると1曲戻り、右を長押しすると進む。Siriを起動したり、電話に出たりするコマンドもある。マイク付きなのでVERSEを着けたまま通話できるのだが、感度が低いのか、けっこう大きな声で話さないと相手に聞こえない。なので実のところ通話にはあまり使っていない。

 

そういうわけで、このVERSEは総じて気に入っている。一度ワイヤレスを使うと、有線には戻れないと思うほどだ。

 

VERSEは遮音性が高く、音楽を聞いているときは周りの音がほとんど聞こえない。喫茶店で周囲の会話が耳について集中できないときなどはVERSEで音楽を聞けば完全にかき消すことができる。

 

VERSEには「スピンフィット」という機構が採用されている。イヤーピース(先端部分)がある程度関節のように動くようになっているのだ。だから音がまっすぐ耳の奥を向いて鳴る。そのせいか、音楽を聞いていると耳の近くというよりは、脳の中で鳴っているような感じがする。ものすごくダイレクトだ。装着時のフィット感もいい。少し捻りながら入れていくと、キュッと止まり、ずれない。ただ、つい音量を上げてしまいがちなので、下手に使うと難聴になりそうだ。あと、フィット感はあるものの、長時間使うと耳の穴が痛い。

 

このイヤホンで聞くとやばい曲はいくつかあるが、中でもTychoのHours(KDHX音源)は極上である。臨場感があるので、総じてライブ音源は相性がいい傾向にある。

 

 

今後ソニーがもっといいものを出してくれたら買い替えようと思うが、とにかく、VERSEもいい買い物であったことに疑念の余地はない。