黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

綺麗な形してるだろ? これ、マッチのケースなんだぜ……

夏になると訪ねてくるのが、ツイッターで知り合った数少ない友人の1人、乙くん(id:otuhito)である。半アル中となったもう1人の酒飲みを加えて3人で飲みに行くのが、暑い季節の楽しみとなった。この3人の集まりはなかなかにまとまりが良く、こうやって大阪で飲むのがまだ2回目などとは、にわかに信じがたい。これほどまでに我々が急速に打ち解けたのはほとんど奇跡と言ってもいいほどだが、考えられる原因としては、ひとつに、乙くんが俺の知る限り最高レベルの「道具を愉しむ人」だということがある。万年筆はペリカンの新旧モデルを複数本所有し、一部で万年筆界の「ペリカンクソ野郎」と呼ばれている。煙草に火を着けるときはZIPPO。靴はサンダルでさえ2万円超え。カメラはフジやライカ。鞄は見るからに使い込んだヘルツ。もうこれぐらいで十分だろう。とにかくこだわりのある人なのだ。そんな乙くんからの手土産となると、いやでも期待せざるを得なくなるのが通常である。ましてや、去年の土産があれほどすばらしかったのだからなおさら。

 

 

去年貰ったANDO(アンドー)のグラスは、素材がクリスタルなのでガラスに比べると断然軽く、口当たりもまろやかであった。これに入れて飲むと、飲み物の味が本当に違う。特にビールは舌で感じる温度、口腔内を抜ける香り、泡立ちの良さまで、明らかに違いがあるので、必ずこのグラスで飲むようにしている。リーデルのグラスで飲むウイスキーやワインの味が違うのと一緒だ。このグラスはもちろんリクエストしたものではない。勝手に選んでもらったものだ。こういうのをさらっと贈ってくれるあたり、自分のツボをよくわかっている人は、他人のツボもわかるのだなあと思う。

 

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そういうわけで今年は何が来るだろうと、かなり期待していた。それを受け取ったのは、オムライスの店で順番を待っていたときのこと。まず、小さな箱を差し出された。見ると、マッチ箱だった。デザインは見たことがないもので、ラベルは中世ドイツの宗教書の挿絵のような絵が描かれた、しかし国産のマッチだった。まさかマッチが来るとは思っていなかったので、これがどんなにすごいものなのだろう?と訝りつつ、とりあえずそのデザインに感動し、おおと声を漏らしながらラベルを眺めていると、次に白い箱を差し出された。これも手のひらに収まるサイズのものだった。その中から、シルバーの平たい繭のような物体が出てきた。実はこいつがすごかった。

 

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それはマッチを入れて持ち運ぶためのマッチケースであった。50〜60年代の外国のクラシックカーを思わせる絶妙なフォルム。よく見るとドイツ製で、その直感は当たっていた。ドイツの軍人は皆こういう洒落たアイテムを持っていたのだろうか。表面のデザインは片面が細い縦縞と太い縦縞の模様、そして中央に大きな緑の丸の飾りがある。もう片面は小さなドットのような模様となっている。丸の飾りがあるほうを見ていると本当にドイツっぽいなあと思う。外側はくすんだ銀(まさにいぶし銀)だが、中はピカピカ。

 

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マッチは普通マッチ箱に入っているものだが、このケースは中のポケットに、マッチを30本くらい入れておける。ポケットの腹には側薬と呼ばれる、マッチ箱の茶色の部分が貼り付けられており、そこをマッチの頭薬で擦れば着火できる。この側薬は裏側がシールになっている。消耗した側薬は剥がして、新しいものと取り替えることができる。シール式の側薬は売っているものなのかわからないが、たぶんマッチ箱の側薬を切り取ってここに貼り付ければ、買いに行かなくても、十分代用できるだろう。そういうわけで、これは半永久的に使える。

 

マッチを使うとき、こんなケースがあると楽しいに決まっているではないか。俺が煙草を吸うときは、ほとんどがパイプで、たまぁに紙巻きという感じである。どちらも着火にはマッチを使っている。紙巻きにマッチを使う意味はないのだが、パイプはマッチを使ったほうが簡単に着火できる。

 

マッチを使っていることは言わなかったのに、それでもこのアイテムが出てくるところが、本当にセンスが良いというか、わかっているなあとつくづく感心する所以である。今年も期待以上の代物。どうもありがとう。来年の期待はさらに膨らむ。そして俺も何か贈らなくては。