黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

筆ペン好きがこだわるぺんてる筆の魅力

筆ペンと万年筆の共通点

万年筆、ボールペンの他に、もうひとつ好きなペンがある。それは筆ペンである。墨と硯がなくても手軽に筆文字が書ける筆ペンは、今でこそ何の目新しさもない、いやむしろ古くさい道具にすらなっているが、まだ筆と硯と墨を使うしかなかった時代においては、かなりの発明品だったのではないかと思う。そしていま気がついたことだが、墨汁をペン軸の中に入れてしまうという発想は、インクを中に入れてしまった万年筆の概念と非常によく似ているではないか。となると、果たしてどちらが先に生まれたのだろう。気になったので調べてみたところ、あのセーラー万年筆が、1972年に初めて筆ペンを開発している。ほぼ想像通りだが、筆ペンの歴史は2013年時点で31年と、万年筆のそれに比べてかなり浅い。というより、筆ペンを開発した時点で「セーラー万年筆」という会社があったのだから、万年筆のほうが古いのは当たり前の話である。では、筆ペンは万年筆にヒントを得て作られたということになるのだろうか。おそらくそうに違いないが、ウィキペディアにはそこまで書かれていなかった(念のため英語版、仏語版のページも見てみたが、たぶん該当記述なし、そして仏語版が一番詳しいというナゾの事態)。
 
 
 

筆ペン競争の「差異」は投げられた

筆ペンのモデルが何であるかはともかくとして、最近では美文字ブームなどもあって筆ペンが売れているようだ。もっとも年賀状や暑中見舞いなどで筆文字を書く人はまだまだいるので、美文字ブームが来る前から一定の需要はあったと考えられる。主な筆ペンメーカーとしてはセーラー万年筆の他にゼブラ、ぺんてる、パイロット、呉竹、あかしや、トンボ鉛筆などがあり、大きめの売場に行くとかなりの種類の商品が並んでいる。筆ペンは万年筆のように個体差こそなけれ、やはり試し書きの必要なペンである。というのも、どのような目的で使うか(すなわち、どのくらいの大きさの字を書くか)によって、選ぶべき筆ペンが異なってくる。パッケージを見ただけでは違いはわからない。パッケージにはよく「トメ・ハライがきれいに書ける」だの、「味のある字が手軽に書ける」と書いてあるが、こういう文句が商品の宣伝になっているのかはわからない。筆に近いペンなんだからトメやハライが書けるのは当たり前だし、字の「味」は腕前の問題であって、筆ペンを使うこととはそれほど関係ないだろうと思うのである。率直に言うと、大半の商品は似たり寄ったりで、大した差はないように思う。字幅(最大でどれくらいの太さになるか)と軸の長さ・太さ・重さを見ればそれでいい。それらの条件で絞り込んだ似たもの同士を集めて書き比べをしたところで、結局のところ判断基準は価格しかない。要するに、筆ペンとは個性の出しにくい製品なのだ。
 
 
 

筆ペン王者、ぺんてる

そんな中、他の筆ペンとは明らかに一線を画する覇権的王者が存在する。それがぺんてるの「ぺんてる筆」である。アマゾンの筆ペンベストセラーで1位から3位までを独占するぺんてる筆には、「太字」「中字」「つみ穂」「すき穂」「極細」と5種類の異なる字幅が用意されており、字幅の他でいうと「薄墨」「和紙用」「朱墨」「顔料インキ」と、インクによっても異なる商品が出ている。字幅のラインナップが充実しているところが勝つのか。万年筆界の王者がパイロットなら、筆ペン界の王者はぺんてるである。

これまでの6年間で俺が購入したぺんてる筆は全部で3本。最初に中字、次につみ穂、最後に極細の順だった。今は専ら極細を使っている。筆ペンを使う機会は限られているが、年賀状や手紙の宛名書きに使ったり、無性に筆で字が書きたくなる衝動に駆られたときに、いらない紙にひたすら書くために使う。ひょっとすると後者のほうが多いかもしれない。
 
 
 

ぺんてる筆の魅力(1)

ぺんてる筆は他のメーカーの筆ペンと違って、ペン先のほぼ根本までしっかりと曲がる。まさにそのおかげで、強弱を生かしたしなやかな字が書けるのだ。ペン先の先端しか曲がらない筆ペンでは、サインペンで書いているのとほとんど変わらない。より筆に近い書き味を求めるならば、根本までしっかりと曲がる筆ペンを選んだほうがいい。
 
 
 

ぺんてる筆の魅力(2)

さらに、ぺんてる筆の優位性はカートリッジ式であることによっても裏付けられる。ほとんどの筆ペンは使い捨てだが、ぺんてるの筆ペンは字幅にかかわらず同規格のカートリッジ(157円/本)が使える。そのため、安い上に使い勝手がよい。ペン先がだめになったときだけ、新しいものを買えばいいのだ。それ以外は、カートリッジを買い足すだけでずっと使える。経験上、まだペン先をだめにして買い換えたことはない。それどころか、数年前に買ったカートリッジをまだ消費しきれずにいる。カートリッジは大容量のため、1本あれば1年は余裕で使える。もちろん、太字を使う人や、筆記量の特に多い人は別である。公式サイトによれば、カートリッジ1本につきおよそ1cm四方の字を「中字」で1万6000文字(はがき80枚分)、「極細」で2万文字(はがき250枚分)書けることになっている。
 
 
 

気になる耐水性

インクは通常のもので染料インクとなっており、完全な耐水性は備えていない。完璧に近い耐水性を求めるのであれば、顔料インクカートリッジ(157円/本)をおすすめする。ただ、染料インクカートリッジは濡れたら即終わりというわけでもなく、ちょうどパイロットの万年筆用ブルーインクやブルーブラックインク程度の耐水性はあるように思う。つまり、表面は水に流れてしまうが、完全に字が消えてしまうことはない。写真は、筆記後5分経って濡れた指で3回擦ったあとの様子である。
 
 
 

特殊素材のペン先に勝因

525円で買えるぺんてる筆に動物の毛など高級素材が使われていないのはわかっていたが、そこはどうやら「世界に誇る特殊製法ナイロン毛」なる、1本1本に「研磨・高保水加工を施し」た化学的な素材を使っているらしい。本物の筆と全く違う素材を使って、ほとんど同じような書き味を実現しているのは素直に感心する。

あまり褒めちぎるとステマのようでよくないが、筆ペンに関してはぺんてる一択だと思っている。先月(2013年7月)はパイロットから「筆まかせ」という新商品が出たが、店頭で試し書きをしたところ、ぺんてる筆の足下にも及ばない出来だった。天下のパイロット渾身の作がこの有様である。したがってぺんてるの覇権はまだしばらく続くとみられる。