黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

トラベラーズノートの掟破りな使い方と手帳術概論

手帳的群雄割拠の時代

毎年、年末や年度末になると、全国の文具売場に特設の手帳コーナーができ、そこには夥しい数の手帳が巨大な魚鱗を組むかのようにずらーっと並ぶ。そしてそこに飢えた目をした漁師(消費者)たちが、「獲物」をしとめようと群がる。もはやこの光景はおなじみとなった。

周知の通り、近年手帳ブームが到来している。明らかに人々の手帳に対する興味は高まり、より自分のライフスタイルに合った手帳を選び、人生を豊かにしようという向きが見られる。ところが販売される手帳の種類があまりにも多いので、どれを選んでいいのかわからない。同じブランドの手帳にも、マンスリーやウィークリー、ホライゾンやバーチカルといった種類が用意されていることが多い。そうした違いも分けて考えれば、選択肢となる手帳の種類は、何千、何万通りとなることだろう。

そうした手帳的群雄割拠の時代に、頭一つ出た存在といえば、モレスキンほぼ日手帳、そしてトラベラーズノートの三大ブランドだ。手帳好きの人の中にはすべて持っているという人もいるだろう。俺もほぼ日以外は手を出した。
 
 
 

これまでの主力はモレスキンだった

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モレスキンはご存じイタリアのモレスキン社が販売する手帳ブランドである。日記を遡ると、俺が初めてモレスキン・カイエを買ったのは2010年5月12日らしい。最初にちょろっと使っただけで飽きてしまい、放ったらかしにしていたが、再び興味が湧いたのか、1年以上経った2011年8月にモレスキンを購入している。しかも今度はポケットとラージで、合わせて2000円を超える。手帳にこれほどのお金を出したのは、初めてだった。これを契機に、手帳趣味の世界へ足を踏み入れてしまった。

今でこそモレスキンの「伝説的ノートブック」という売り出し方に懐疑的だが、当時は本当にピカソヘミングウェイモレスキンを使っていたと信じていた(*1)。また、質実剛健な作りに歴史やプライドを感じたりもしていたが、次第に品質の低下が顕著になり、経済性を優先した商法に疑問を抱くようになった。

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2011年10月、モレスキンを使い始めてしばらく経った頃、トラベラーズノートと出会った。いわゆる「オフ会」に参加したときに、トラベラーズノートを使用している人がいたのだ。トラベラーズノートは日本のミドリ社が販売する手帳ブランドである。「旅」をコンセプトとし、一枚の革とゴムバンドだけで作ったカバーはモレスキンとまた違った男らしさを感じる。そのときの感動の勢いで、翌日にはトラベラーズノートを購入しに走っていた。レギュラーサイズと悩んで、パスポートサイズにした。

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情報はできるだけ一元管理する主義なので、トラベラーズノートを使い始めるにあたって、モレスキンは使わなくなった。初めはそれに満足していた。見た目でいうとトラベラーズノートの方が好みだった。マンスリーのカレンダーと、方眼のメモと、ナイロンのジッパーケースをリフィルとしてセットして使っていた。しかし、トラベラーズノートモレスキンに比べて書きやすさの面で劣った。手で押さえていないと勝手に閉じてしまうし、ゴムの結び目のせいで、右側のページが平面にならないからだ。これは手帳として使うにはあまりにも致命的な欠点だった。結局、数ヶ月でモレスキンに回帰することとなった。

そして今、再びモレスキンに飽きようとしている。理由は、トラベラーズノートの欠点をうまく補う使い方を発明したからだ。それはいったい、どのような使い方か。
 
 
 

トラベラーズノートを活かす逆転の発想

紹介する前に断っておくが、はっきり言って、この使い方はルール違反だ。というのも、トラベラーズ「ノート」であるにもかかわらず、ノートたるリフィルを全部抜き取るからだ。純正のリフィルのうち継続して使うものといえば、ナイロンのジッパーケースのみ。マンスリーのカレンダーや方眼のメモといった紙のリフィルはもういらない。だから捨てた。

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代わりに追加するのは、メモパッドである。パスポートサイズのトラベラーズノートには、B7サイズのメモパッドがぴったりと収まる。おすすめは、アピカの再生紙メモパッド。安価で品質がよい。

なぜメモパッドを使うのか。それには一応ちゃんとした理由がある。メモパッドの最大の潜在能力は、思考をストレスフリーにしてくれるところにある。ふつう大切なノートは失敗を恐れて慎重に書くが、チラシの裏になら何だって書ける。メモパッドはチラシの裏に書く感覚に近い。ずっと保存するつもりもないので、きれいに書く必要などない。間違ったら、ちぎって捨てる。それでそのページは、なかったことになる。そういう使い方が、思考に迷いを生じさせにくくし、閃きや冷静な判断を逃さない。重要なアイディアというのは、ふとした時(さらに言えば油断した時)に降ってくる。「さあ、閃くぞ!」と構えても、そうなることはあまりない。だから、自分の脳を油断させるために、あえて陳腐なメモパッドを用いる。高価なノートは、一次的思考メモには適さない。それは、二次・三次のメタ情報用に使うべきだ。

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B7サイズのメモパッドはこのようにパスポートサイズにぴったりと収まるので、どこへでも持ち運べる。ゴムバンドを外せば、メモパッドはいつでもトラベラーズノートのカバーと分離する。書くときは、カバーは外して横に置いておけばいい。そうすれば、ゴムバンドの結び目が下敷きになることもなく、平面になる。また、先ほどおすすめしたアピカのメモパッドは、どこで開いても180度になるような綴じ方をしてあるので、書くときに手で押さえる必要がない。おまけに、万年筆で書いても「裏抜け」という現象が起きなかった。これで、俺がトラベラーズノートを敬遠する理由は一つもなくなった。

書いてちぎったメモをどう管理するかも一つの重要すぎる課題だったが、これもトラベラーズノートならではのうまい解決法がある。差し込んだリフィルを固定するためのゴムバンドに挟んでおくのだ。そうすれば紛失の恐れもなく、いつでも取り出して見直しができる。メモパッドを単体で使うと、この課題は解決できなかった。トラベラーズノートと組み合わせることで、使い勝手は劇的に向上した。

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ナイロンのジッパーケースの使い方は、それぞれの考えでいい。俺は本を読むときに付箋をつけることがあるので、小分けにした付箋を入れている。これで外出先で本を読むときにも困らない。メモを取りたくなったら、メモパッドに書いて、ちぎった紙をゴムバンドに挟んでおけばいいのだ。使い方はたったこれだけである。

このように、あらゆる紙のリフィルを取り除いてメモパッドを挟む画期的な方法を思いついてから、トラベラーズノートに対する愛着が蘇ってきた。最近はどこへ行くにもかばんの中にこれを入れている。もともと「旅」をコンセプトにした手帳だから、外で取り出してささっと書くことはこの手帳の得意分野だし、それになんというか、様になるのだ。
 
 
 

手帳は濾過せよ!

ただし、このメモパッドだけですべての情報を管理するのは無理があるのではないかという疑問はある。もちろんその通りだ。先述のようにトラベラーズノート+B7メモパッドの組み合わせは、あくまでも一次的思考を書き留めるためのものにすぎない。いわゆるジョッターのような役割を担うものだ。ということは、それだけでは情報がまったく整理されていないし、重要なものとそうでないものが混在している。また、うまくまとまっていない生(raw)の状態の思考もある。だから、あとからそれを補完・整理する作業が不可欠になる。

一次的メモを整理し、重要なものだけをまとめて書き直せば二次的メモになる。この作業は時間をかけて丁寧にこなせばいいので、必ずしもメモパッドを使う必要はない。つまり、一次的メモはメモパッドに、二次的メモ以降はノートに残せばいい。二次的メモから三次的メモへ、三次的メモから四次的メモへと「濾過」を繰り返すたびに、情報の抽象性と重要性は高まり、自らの人生において最も重要な情報だけが自動的に集まってくるのだ。そうなるとまさに財産である。
 
 
 

手段の目的化は危険

空前の手帳ブームで高価な手帳がよく売れているが、究極的に手帳とは人生を豊かにするために使う道具(手段)にすぎない。だとすれば、手帳は利用してこそ価値を生み出す物だ。お金と同じで、それを持つこと自体が目的になってはいけない。「手段の目的化」は生産力の低下を招くばかりか、本来の目的を損なわせることにも繋がりかねない。そうした事態を避けるためには、あえて安価なメモパッドを使って、自分自身を油断させておかねばならない。そのためのメモパッドなのだ。思ったこと・考えたことは何でも書いておく。そういうユビキタスキャプチャー的な使い方に向いている。

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とはいえどんなに画期的な方法も、いつかは不備が見つかるし、飽きがくる。トラベラーズノートにメモパッドを入れるこの方法は間違いなく現時点で最善のものだが、これからもずっとそうだとはまだ言えない。まずは数ヶ月から1年、この方法で満足のいく結果が出るか試してみようと思う。

手帳選びは楽しい。そして手帳のオリジナルな使い方を考えるのはもっと楽しい。ちょっとぐらいは手段が目的化するのも大事だ。
 
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[1] KandaNewsNetwork KNN http://bit.ly/10quWb4