黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

能率手帳ゴールド2年目にして足るを知る

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能率手帳にしたきっかけ 

トラベラーズノートを手帳として1年くらい使った後、やっぱりこれじゃないという気がして、乗り換えた先は能率手帳だった。販売元は日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)である。2007年、同センターの代表取締役会長(当時)の野口晴巳が著した『能率手帳の流儀』は、現在では絶版となっているにもかかわらず、未だに読み継がれている名著である。著者の野口自身が能率手帳のヘビーユーザーであり、使い手と作り手の両方の立場から、能率手帳の使い方や作り手としてのこだわり、さらには人生における手帳の意義などについても書かれている。自分の読書記録によると、この本を読んだのは2016年11月3日だ。評価は5段階評価で真ん中の3点となっている。3点は「一読に値する」と思った本のグループである。感想として「失敗談を語ることは人の心を掴む」と書いてあった。読めばわかるが、著者の野口は人としての魅力がある。この本は間違いなく、俺が能率手帳を使い始めるきっかけになった。

 

 

マンスリーがない

最初は戸惑うこともあった。選んだのは能率手帳の中でも最高級の「能率手帳ゴールド」(3121N)だ。この手帳、マンスリーがない。いや、あるのはあるのだが、予定を書き込んでいくタイプのものではないのだ。それで、専らウィークリーに書き込むようになっている。いわゆる週間レフト式というやつだ。左のページは上から順番に月火水木金土日となっており、時間軸がそれぞれ横に伸びている。右のページは空白で、予定の詳細や覚え書きなどを記入するスペースになっている。1ヶ月の予定を見開きで見渡せるマンスリーはこれまでの手帳で必須の条件と思っていた。マンスリーのいいところは、アナログ時計と同じで、「あとどれくらいで○○」ということが一目で感覚的に把握できることだ。たとえば1週間後の予定は今日の真下にあるので、イヤでも目に入る。ところがウィークリーだとページをめくらないと次の週が出てこない。だからマンスリーがなくなったら相当不便になるのではないかと不安だった。ところが、使ってみるとそうでもなかったのである。

 

能率手帳の使い方

1年の間に、自分の使い方もおおかた定まった。使い始める前に、まず拾得時の連絡先を表紙をめくったところに記しておく。モレスキンには“In case of loss”の欄があるが、能率手帳にはない。代わりに「この手帳を拾われた方へのお願い」というカードを一応くれるのでそれを手帳に挟んでおけばいいのだが、そのカードに書いてある連絡先はJMAMのもので、持ち主の手に戻るのもJMAM経由でということになる。面倒なので自分のメールアドレスを書いている。

 

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年間予定表は使わない。連休がどの程度あるかを見るだけだ。

 

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月間予定表は習慣化したいタスクの管理のために使っている。定期購読教材を使って英語の勉強をしているので、その日毎にチェックを入れる。それ以外は特に見ない。ここはもう少し活用の仕方があるだろうと思うが、無理に使う必要もない。

 

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次の週間予定表がメインになる。左ページの時間軸の下には予定などを書く。大事なのは、仕事とプライベートを分けないで一緒にすること。ダブルブッキングを防ぐためだ。済んだことでも、記憶に残りやすい出来事や場所は書いておく。手帳は予定の管理のための道具であると同時に、振り返りのための道具にもなる。振り返りの際に、出来事や場所を書いておくと記憶を辿りやすい。日付の下にはその日読み終わった本のタイトルを書いている。初めは雑誌の名前も書いていたが、雑誌も含めるときりがないので雑誌以外の本だけ書くことにした。これで読書が捗っている週とそうでない週が一目でわかる。右のページには、本の抜き書き、気になったニュース、クレジットカードの引き落とし金額、光熱費、やるべきこと、思いついたこと、ブログに書きたいこと、気に入った名言、使ってみたい英語のフレーズ、読みたい本、見に行きたい美術展、行ったライブのセットリスト、などが書いてある。手帳に何か書くときには、だいたい万年筆を使っている。たとえ手間がかかっても、自分の好きな道具を使う方が長続きする。手帳にボールペンを使うのはビジネスのときか、急いで何かを書き留めたいときが多い。

 

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週間予定表の次はメモがあって、年齢早見表、単位の換算表、印紙税額一覧表、地下鉄路線図、去年と来年の年間カレンダーがある。あとは別冊で住所録が付いているのだが、この小冊子を実際には住所録として利用しない。勝手に線を引いて、趣味の一つである風景印・小型印の収集記録として使っている。左端に□を書き、対角線を引いて二つの三角にする。左側の三角は風景印・小型印の郵頼物を投函したとき、右側は押印された物が返ってきたときに塗りつぶす。これにより、何が返ってきていて、何が返ってきていないのかを把握できる。□の右には郵頼先の局名、その右には押印日と押印内容を書いている。

 

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使い方としては以上だ。能率手帳ゴールド(品番3121N)は6,264円と高級だが、使ってみて特別高いとは感じなかった。ちょっとしたことが意外に大きな満足感を生み出す。たとえば紙はこの手帳のためだけに漉かれた「特漉き」の紙。薄いのに万年筆でも裏抜けしない。カバーに使われている羊革は牛革に比べて柔らかく、手触りが良い。小口には本物の金箔が塗られている。見た目に美しいだけでなく、汚れ防止の効果もあるらしい。製本は糸かがり綴じ式で、どこで開いても水平になり、また強度が高い。個人的には本体とカバーが一体になっていて、隙間ができないのが気に入っている。強度を出すために寒冷紗という補強材を使っているとのこと。これは本来百科事典のような大きくて重いものを製本するときに使うものらしい。それを手帳に使ってしまうオーバースペック感、嫌いじゃない。

 

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品番3121Nの製品は名入れの料金を含んでいる。去年と同じくフォントはパークアベニュー、色は金色を選んだ。9月1日から1月始まりの手帳が注文できるようになり、3日に注文したところ、13日に発送したと連絡があった。届いた18年版を見て、1年でこんなに見た目が変わるのかと驚いた。18年版は革の手触りが良い気がする。個体差があるとは、そういえば他のユーザーもブログに書いていた。

 

JMAMが運営する「みんなの手帳部」を覗くといろんなユーザーの使い方が紹介されていて、飽きない。またInstagramで「#能率手帳」と検索するとかなり物欲を刺激されるような写真に出会う。特に長年使っている人の、歴年の手帳がずらっと並んでいる様は圧巻で、簡単には真似できないが故の格好良さがある。

 

冷静に考えると能率手帳ゴールドは「めちゃくちゃ使いやすい手帳」というわけではない。高い品質は別として、手帳としての使用価値は他の手帳と変わらない。ただそれなりにちゃんと使えて、大きな不満がないだけだ。しかし考えてみれば、それこそが手帳として最高の状態ではないかと思う。特徴的な長所も多いが短所も多いという手帳より、能率手帳ゴールドのような「オーソドックスだが無欠の手帳」を、自分は求めていたような気がする。