黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

書けなくなった万年筆をビタミンCで復活させる

久しぶりにカスタム74を使おうと思ったら、全くインクが出てこなくなっていた。胴軸を外してコンバーターの中身を確認すると、インクは満タンに近い量が入っているので、単なるインク切れではなかった。おそらく最も強烈な古典成分を持つダイアミンの「レジストラーズインク」を何週間も書かないで放置した結果、内部で固まってしまったものと考えられる。わかってはいながら、メンテナンスを怠ってしまった。今では反省している。ボールペンと違って、万年筆のような古い道具は、積極的なメンテナンスが欠かせない。ずばり、楽しい道具は面倒くさいのだ。万年筆にとっての最良のメンテナンスは毎日少しずつでも使うことだと言われている。ここのところ俺は万年筆を使う機会が少ない。まあそんな時期もあるだろうとは思う。ただ、万年筆に対する最低限の配慮として、長期間使わないときにインクを抜くのだけは忘れないようにしたい。

 

 

 

古典インクは成分上、水に強い。この耐水性は、書いた文字が水に流れないという古典インク最大の強みであると同時に、汚れが水で洗っても落ちないという難点でもある。固まってしまったら、いくら浸け置きしようと、書けるようにはならないのだ。そこで必要なのがアスコルビン酸、いわゆるビタミンCである。つまり古典インクに限り、ビタミンCによって詰まりを解消することができる。

 

アスコルビン酸は薬局へ行けばたしかにすぐ見つかるのだが、種類的にまず錠剤が圧倒的に多い。粉末があるとしても当然飲むものとして売っているので、インクの汚れを落とすために使うつもりの人にとっては必要以上に多いし高いしで、購入を逡巡するのも当然。比較的容量が少なくて安いのでも300gで980円。アスコルを使った万年筆の洗浄などそうあることでもないので、もうちょっと割高でもいいから少容量・低価格の商品を、ナガサワのような万年筆屋が売ってくれるといいのになぁ、とこの際強く思った。

 

井藤漢方製薬 ビタミンC1200 約24日分 2gX24袋

井藤漢方製薬 ビタミンC1200 約24日分 2gX24袋

 

 

結局、高いアスコル原末は買わず、井藤漢方製薬の「ビタミンC1200」というのを使ってみることにした。48gで253円だった。これは砂糖が入った完全なる食品で、アスコルの原末ではない。純粋なビタミンCじゃなくても大丈夫なのだろうか、砂糖がペン先にダメージを与えやしないだろうか、とは思ったけれども、たった一晩浸けておくだけだし、効果がなければ食品として消費してやればいいと思ったので購入した。

 

スティックシュガーみたいな感じで、顆粒が入っている。水にはすぐ溶けた。純粋なアスコル原末の場合には1%水溶液でいいらしいが、これはビタミンC以外の添加物がいっぱい入っているので、ちょっと濃いめに作った。できあがったCCレモンみたいな黄色の液体の中にペン先を浸け、数分経ったあたりで変化が現れた。ペン先の根元あたりから、青いモヤモヤが出てきたのだ。良かった。純粋なアスコル原末でなくても、効果はあったのだ。そのまま一晩浸けておき、翌朝にきれいな水で洗った。さらに一日水道水に浸けておき、洗浄は以上。

 

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インクが溶けているのは見たが、これで完全に復活したかは使ってみるまでわからない。早く効果の程を検証したかったのだが、数日はその時間がなかった。代わりにその間、次に何のインクを入れようか考えたりしていた。またレジストラーズインクを入れてもいいし、別のインクを入れてもいい。カスタム74は圧倒的「普段使い」の1本なので遊びの色は避けるとして、寒(暗)色系だけでもめちゃくちゃ種類があって選べない。ここでまた俺はジャムの話を思い出すのであった。

 

 

そして候補に絞り込んだのは以下の6色。

 

レジストラーズインク
ペリカンブルーブラック
・ラミーブルーブラック
・六甲グリーン
冬将軍
・月夜

 

上3つは古典インク、下3つは染料インクである。染料インクは最近あまり抵抗がなくなってきた。たぶん六甲グリーンが気に入りすぎたからだと思う。あれは緑のM400とたいへん良く合うし、インクの色が限りなく黒に近い地味さで使いやすい。

 

(↑結局、M400は細字研ぎをお願いしたのであった)

 

冬将軍と月夜は色彩雫の人気色で、俺が買うならこの色だなと前から思っていた2色だった。グレーがかった落ち着いた青の深海も使ってみたかったのだが、ブルーブラックなら古典があるじゃないかということで却下された。

 

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で、買ったのは月夜。万年筆歴5年目でやっと初めての色彩雫とは、手を出すのが遅すぎたくらいだ。月夜の魅力の半分くらいはそのネーミングにあると思う。いったいパイロットはどのようにしてこのインクを作り上げたのか。先に月夜という名前を決めてそのイメージに合う色を作ったのだろうか。あるいは先に色を作ってそこから連想される名前を考えたのだろうか。いずれにせよ、この月夜という色を作った人と、冬将軍という色を作った人は天賦の美的感覚を持っていると思う。

 

いざ吸入。書いてみると思い通りのフローであった。月夜は、雲間から出てきた黄色い月が闇をほんの少し明るくしたかのような、そういう青だ。例の動画で使われているのも、月夜らしい。

 

 

さあ、これでまた74をメインの万年筆として使っていける。よしよし。