黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

黒猫流選書術・読書記録術

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成功した読書家がよく言うように、本は低い投資で高い報酬が得られる。これは本当にその通りとしか言いようがない。屈指の専門家が人生をかけて研究した成果や、独創性のある天才が才能をフル活用して書いた物語を、俺だけのために、いつでも、どこでも、何度でも、ごくわずかのお金で、俺のスピードに合わせて教えてくれるのが本である。同じ内容をセミナーや塾で吸収しようと思ったら、少なく見積もってもその何百倍はかかるだろうし、あまつさえ教えてくれる人が亡くなっている場合は、いくらお金を積んだところで叶わない。だから本というのは尊いものである。そう考えると、成毛眞が「本を読まない人はサルである!」というサブタイトルの本を出したのも、そんなに挑発的なことと思えない。たぶん本を読まない人の言い訳第1位は「時間がない」だが、佐藤優のような人が「どんなに忙しくても6時間は確保している」というのに、そんな理由が通用するはずがない。

 

 

わが身を振り返ってみると、大学時代はひと月の書籍購入代が3万円を超えたこともあったが、今はほとんど本にお金をかけなくなった。ただし本を読まなくなったというわけではない。お金をかけずに、読書をするようになったというだけだ。むしろ読書量は増えていると思う。今年の9月には人生最多の24冊を読んだし、ちょっと疲れが溜まりつつあった10月も19冊を数えた。そしてさらに忙しくなるであろう11月も20冊は読もうと思っている。本当は1日1冊が理想なのだが、新書や薄めの文庫ならともかく、平日に時間の合間を縫って、長編小説や難しい内容の方を1日で読みきるのはたいへん難しい。この辺は自分でも甘いと思うところで、時間の使い方が下手クソなのだろうと思う。とりあえず、消化不良が原因で自己嫌悪に陥る事態だけは避けたいので、ハードルはあまり高くしないことにしている。

 

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本にお金をかけずに済んでいるのは、読みたい本の9割以上を図書館で借りてきているからで、図書館で本を頻繁に借りるようになったのは、去年の暮れからだと思う。図書館で本を借りて読むことについては、大学時代から、割と強い抵抗があった。図書館の本は、書き込みができない、返却期限がある、そして何より、身銭を切らずに読めてしまう。こういうところがマイナスになると思って避けてきた。でも実際にたくさん借りるようになると、返却期限のおかげで読むスピードは上がるし、いつか買おうと思っていた本もすぐ借りられて多読が進むし、けっこういいことだらけだった。図書館は人類史上最高のインフラではないだろうか。

 

読書法、というのはとにかくいろんな人が書いたり話したりしていることだが、人の褌で相撲が取れるほど読書は簡単ではないと思っている。読む速さも、使う道具も、人それぞれ。他人の読書法を無理に移植してもきちんと動かないことが多い。ちなみに俺はペンを使う方法を思い切ってやめ、今はただ読むだけにしている。どうしても残したい部分が出てきたときは、iPhoneで写真を撮っておき、読む速さはなるべく緩めない。当然、写真に撮った部分の抜き書きなどは本を読み終えてから行う。

 

抜き書きはモレスキンにしていたこともあるが、アナログのノートはキーワード検索ができないので、Evernoteに「Reading」というフォルダ(ノートブック)を作って、そこに全部入れている。概略はポメラの記事で書いた通りだが、今一度参考程度に紹介しておく。

 

 

「Reading」の中には読んだ本1冊ごとにノートを作っていて、タイトルに著者・タイトル・出版社を記入。本文に「本を借りた(買った)日」「読み始めた日」「読み終えた日」「評価」の欄を作る。感想や抜き書きはその下に書く。今はポメラではなく、すべてMacBookiPhoneで更新しているため、更新した内容はすぐに同期される。日付は検索に引っかかるよう、日記などと同様の8桁表記(「20141101」など)。評価は★1〜5で行い、いちいち★を1個ずつ入力する手間を省くため、予め辞書登録しておく。借りた(買った)時、読み始めた時、読み終えた時に逐次日付を入力するのが大事。忘れると後で調べるのが面倒だからだ。

 

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読書記録はこれだけで十分だ(と思う)が、俺はなぜか読書メーターも作ってしまったので、惰性でそれも続けている。読書メーターは累計の読書量をグラフ化してくれるだけでなくて、ひと月ごとに冊数を数えてくれたり、一日あたりの平均ページ数を計算してくれたりするので、その点は便利だ。なお読書メーターにはSNS的要素があるので、その点は他のサービスとの比較対象になり得る。すてきな感想を書いたりすると他人から「ナイス!」がもらえるのだが、自分さえ参考になればいいと思って★しか書いていない俺の感想に「ナイス!」がつくと、どこがナイスじゃと思わずイラつく。まあ、何はともあれ読書記録はモチベーションの維持に役立つし、たぶんやったほうがいい。

 

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最近読んだ本の中で特に面白かった本を紹介しておく。

 

ヒゲのウヰスキー誕生す (新潮文庫)

ヒゲのウヰスキー誕生す (新潮文庫)

 

 

塩狩峠 (新潮文庫)

塩狩峠 (新潮文庫)

 

 

現代思想の冒険 (ちくま学芸文庫)

現代思想の冒険 (ちくま学芸文庫)

 

 

命をみつめて (岩波現代文庫)

命をみつめて (岩波現代文庫)

 

  

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

 

  

錦繍 (新潮文庫)

錦繍 (新潮文庫)

 

  

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

 

 

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯1 (新潮文庫)

 

 

交渉術 (文春文庫)

交渉術 (文春文庫)

 

 

これ以上遡ると「最近」と言えなくなってくるので、やめておく。俺はそこそこ面白い本でも★3つしかつけない辛口派だが、上に挙げた本はすべて★4つをつけている。文句なしに面白かった。

 

さて、本を探したり図書館で借りたりする上であると便利なツールも紹介しておこう。まずは先ほど述べた読書メーター。知識などの積み重ねが視覚化されるというのは心理学的にいいらしい。そんな話をどこかで見た気がする。

 

 

次にカーリル。SkypeっぽいUIだが本を探すには便利。最寄りの図書館に目的の本があるかどうかも一発でわかる。カーリルはマジで便利。

 



そしてもっと便利なのが「その本、図書館にあります。」というChrome拡張機能Chromeでアマゾンにアクセスする人しか使えないが、アマゾンで本を検索するだけで図書館の在庫もわかるのは最高の時短。これが使えなくなると面倒くささで死ぬ。

 

 

あとは図書館のお知らせメール。予約資料の受取が可能になったらメールが届く設定にしておく。大阪市は15冊まで予約できるが、俺はほぼ常時15冊予約を入れている。

 

最後に、自分にとっての名著に出会いやすくするコツについて。どこかで誰かが言っていたのだが、生涯手元に置いておきたいと思う本は、20冊読んで1冊あるかないかぐらいだという。無論、その20冊も無差別に選んでいるわけではないから、その1冊に出会う確率というのは相当に低いと考えられる。これまでの経験から俺がなんとなく心得た「自分にとっての名著と出会う確率を高める方法」は、次の3パターンに分類される。すなわち、(1)同じ著者の別の本を読んでみる、(2)気の合う人が読んでいる本を読む、(3)本屋でぶらぶらして出会った本を読む、の3つである。

 

(1)と(2)については解説することもあるまい。(3)はいわゆるセレンディピティ(思いがけないものを偶然発見する能力のこと)を利用した方法だが、意外にも、これがけっこう面白い本に出会える。何かを探すでもなく本屋をぶらぶらして、気になったタイトルや表紙があれば手にとってみる。目次や中身をパラパラと覗いて「面白そうだな」と思えば、iPhoneでアマゾンの欲しいものリストに入れておき、後でPCからアクセスすると同時に図書館の蔵書検索が完了する。このセレンディピティで出会った本には、石川文康『そば打ちの哲学』や林望イギリスはおいしい』の他、山本直人電通リクルート』、月本洋『日本語は論理的である』などがある。

 

そば打ちの哲学 (ちくま文庫 い 78-1)

そば打ちの哲学 (ちくま文庫 い 78-1)

 

  

イギリスはおいしい (文春文庫)

イギリスはおいしい (文春文庫)

 

 

電通とリクルート (新潮新書)

電通とリクルート (新潮新書)

 

 

日本語は論理的である (講談社選書メチエ)

日本語は論理的である (講談社選書メチエ)

 

 

なお、アマゾンの評価はあてになるときもあれば、ならないときもある。高評価だから面白いとも限らないし、低評価だからつまらないとも限らない。アマゾンでの星の数と本の面白さは、相関関係にはあっても、因果関係にはないのである。たとえば中島敦『李陵』や北方謙三水滸伝』、アガサ・クリスティーそして誰もいなくなった』については、多くのレビュワーと意見に相違なかった。どれもたいへん面白い。ところが川上弘美『神様』や村上春樹世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、J・P・ホーガン『星を継ぐもの』といった本については、アマゾンでの高評価とは裏腹に、全く面白さを見いだせなかった。このように、読んでみないとわからない部分が多分にある。高い評価を信用して読んだ本がハズレだった、ということだけならまだいいのだが、評価が低いからつまらない本に違いない、と思い込んで、自分にとっての名著との出会いを自ら断ち切ってしまう可能性があるので、これには注意したい。

 

李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

 

  

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

 

 

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

  

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)

 

  

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

 

 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

 

ということでブログを書いていたら今日の読書が大いに滞ってしまったので、この辺で終わりにしておく。読書に関する記事はこれが最初で最後になるかも。