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黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

プロギア購入

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プロギアを買った理由(わけ)

もう先週の土曜日になるが、セーラー万年筆のプロギア(プロフェッショナルギア)を手に入れた。購入場所はもちろんナガサワ文具店である。幸運にも販売員の竹内さんが店頭にいらっしゃった。スーベレーンを買う際にもお世話になった人で、あの人の万年筆に関する見識と道具愛には尊敬の念を抱いている。今回は下見のつもりで行っただけなのに、約1時間経って店を出る時には、青と白の模様の紙袋を手にぶらさげていた。自分でも展開の早さに驚く。スーベレーンを買ってから4ヶ月ちょっとしか経っていないというのに、どうして新しいものが欲しくなったのか。実を言うと、ちょっと深刻な問題が出てきた。万年筆の問題というよりは、俺自身の問題かもしれない。どういうことかというと、ペンの持ち方と、書く字の大きさが変わってきたのだ。

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重心はめちゃくちゃ重要

まず持ち方の問題から説明しよう。スーベレーン(上)は、キャップを尻軸につけて書く場合、写真の位置を持つのが一番書きやすい。首軸よりもちょっと上で、持つと手とペン先との距離はやや長くなる。その位置が、最も重心のバランスが取れるようになっている。キャップを尻軸につけた分だけ上の方が重くなるので、やや上を持たざるを得なくなるのだ。思うに、万年筆にはこの位置を持たせるものが少なくない。万年筆を使っているうちにこの持ち方に慣れてしまったという人もいるだろう。

それに対して、プロギア(下)は首軸の部分を持って書いても安定する。「首軸の部分を持って書いても」と書いたのは、それより上の部分を持っても安定するからだ。

俺はM400を買ったとき、首軸より少し上の部分を持って筆記していた。つまりそれでバランスが取れていたのだ。持つ位置については特に何も考えないで、「万年筆とはこの辺りを持って書くのが正解だろう」と思っていた節がある。ところが、あるときにふと重心のアンバランスが気になり始めた。なぜだろうと考えていたら、持つ位置が首軸にだんだん近づいてきていることがわかった。まるでボールペンを持つときと同じような持ち方である。もともとボールペンが好きで使っていたから、万年筆を初めて使ったときは少々戸惑った。あんなにペンを寝かせて書くのは初めてだったし、ペンを持つ位置もボールペンと違う。それに慣れて違和感を払拭するまでには、ちょっとだけ時間がかかった。それでやっと万年筆独特の書き方に慣れたと思いきや、ボールペンと同じ書き方に回帰したのだ。

手元の秤で計ってみたら、プロギアのキャップの重量は8gで、M400のキャップは6gだった。軸は、インクを抜いて計らなければ正確なデータが得られないのだが、まあだいたいの結果を得られればよいとしてそのまま測定したところ、インクを吸入したばかりのプロギアが17gで、インクがなくなりかけのM400が10gだった。ということは、キャップをつけた状態では、プロギアが25gでM400が16gということになる。手のひらに乗せて持つと、たしかにプロギアの方が重く感じられた。ところが、いざペンとして持って書くと、M400は尻軸につけたキャップの重みから重心が上の方にきて、指に余計な力がかかった。これはM400の問題というよりは、俺の持ち方の問題だ。

一応スーベレーンの名誉のために言っておくと、あれは実によくできた万年筆で、見た目の美しさはもちろんのこと、書き味も申し分ない。ドイツ・ペリカン社の代名詞であり、万年筆ユーザーなら誰もが知っている。大枚をはたいてM400を手にした時は、何とも言えない達成感があった。俺ごときの手元にあるべき万年筆ではないのに、今ではすっかり当たり前の存在になってしまっている。時折他人に自慢していると所有の事実が実感として湧いてきて、悦に入ることもある。

ところでスーベレーンには5つのサイズがある。大きなものから順に、M1000、M800、M600、M400、M300となる。M400のキャップを尻軸につけた状態での長さは、約15cm。軸はすらりとしているものの、細すぎることはない。違いは大きさのみならず、軸色の種類やペン先の仕様なども異なる。M1000とM800には18金のペン先、M600とM400とM300には14金のペン先が使用されている。M400のペン先は硬すぎず柔らかすぎずで、標準的とされる。シリーズ中2番目に小柄でありながら、意外にもインク容量はM1000やM800よりも大きいところに、優越感を感じないわけにはいかない。

一方プロギアは4つのサイズがある。大きなものから順に、プロギア、プロギアスリム、プロギアミニ、プロギアスリムミニとなる。今回はプロギアとプロギアスリムに目星をつけていたのだが、店頭にはスリムがなかった。ちょうど品切れていた。「だいたいこんなイメージですよ」とよく似た万年筆を出してきてくれたので、プロギアと擬似プロギアスリムとを比較して、プロギアに決めた。最も大きいものを選ぶことになるとは予想していなかったが、書いてみると意外にしっくりきた。軸は太い。M400などに比べると圧倒的に太い。重量もある。でも、バランスがいい。今の持ち方には、ベストバランスだ。なんといってもプロギアのペン先は21金。柔らかいペン先とはこういうことなのかと思った。筆圧の低い俺にはもってこいのペン先ではないか。4本の万年筆を代わる代わる持ち替えて書き比べること30分以上。プロギアと、ヘリテイジ912、M400、それから擬似プロギアスリム。結果として、プロギアの書き心地に勝るものはなかった。

ちなみにプロギアにはクリップなどの金属部分が金色のものと、銀色のものがある。女性には老若問わず金が人気だそうだが、男性はというと、20代から30代は銀が人気で、40代以上になると金だそうだ。俺は迷った挙句、銀を選んだ。ペン先の状態がよかったというのも理由の一つだ。

余談にはなるが、売場にある万年筆の他に、竹内さんの私物である万年筆を触らせてもらうことができた。茶縞のスーベレーンM400に、茶色のインクを入れて使っておられた。軸の色に合わせたインクを入れて使う遊びは、実際に書いてこそその面白さがわかる気がした。竹内さんはM400を何本も持っているという。そういえばフルハルターの森山さんにしても、モリタ万年筆の森田さんにしてもそうだが、スーベレーンはなんと多くのプロに愛されていることか。
 
 
 

恐ろしく細いプロギア

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さて、プロギアを買ったもう一つの理由についてだが、それは字の大きさの変化だ。M400を購入した当時、ノートの使い方はかなり大雑把だった。今でも多少その名残はあるが、モレスキンを見返すと、ページによっては15文字ぐらいしか書かれていない。自分にしか読めないような字でちょろちょろっと書き、すぐに次のページにいってしまう。そんな使い方をしていたので、割と太めの字でぬらぬらと書けるM400が気に入っていた。

今は違う。割とゆっくり、まとめながら書くようになり、字の大きさもだいぶ小さくなった。M400は(もちろん個体差はあるが)小さい字を書くのに向いていない。潰れてしまうのだ。特にモレスキンに書くと余計に太くなりがちで、だんだんとストレスが溜まっていたのも事実だった。重心と線の太さが、だんだんと違和感を大きくし、新しい万年筆の購入の検討を要請してきた。

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一般に、海外の万年筆は線が太く、国産の万年筆は細い。理由は簡単で、アルファベットはそれほど細い字で書く必要がないのに対し、漢字は細い字でなければ潰れる。スーベレーンで「鬱」なんて書けない(笑)。それにしても、プロギアの線の細さは噂に違わずすばらしかった。毎日M400で筆記していた感覚からすると、尋常ではない。書きながら「こんな大きさの字が書けるなんて考えられない」と漏らした。プロギアには「極細」がなく、最も細いもので「細字」となる。それでもM400のEF(極細)に比べてはるかに細い。字の太さの基準は、メーカーによってどころか、個体によっても異なるのであり、それゆえ「絶対にネットで買ってはいけない」と竹内さんは言う。その通りだと思う。

プロギアとスーベレーンの2本をどう使っていくか。スーベレーンの線の太さが気に食わなくなったが、書き味は全く衰えていない。竹内さんの提案によると、手紙などを書く際に本文と宛名とに異なる太さの万年筆を使い分ければ見栄えがよいという。すなわち、本文には細いプロギアを用い、宛名には太いスーベレーンを使う。インクは同じ色を入れておけばよいとのこと。たしかに、そのやり方でいけば2本を有効活用できる気がしてきた。プロギアが手に入っても、M400は現役を引退しない。まだまだ自慢の1本であることには違いないし、愛着も尽きない。

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ややキツい感じはするが、愛用のペンケースになんとか入ったプロギア。やはり新しい万年筆を買うのは気分がいいことだ。無限の可能性を手に入れたような気になるではないか。ふとプロギアの天冠に目を遣る。セーラーの万年筆であることを示す、錨(いかり)のマーク。光を反射し、まぶしく光る。美しい。

……思えば何でも帆船モチーフのものが好きになった頃から、セーラー製品を手に入れることは決まっていたのかもしれない。