黒猫陛下の書斎

「試筆」とは、試し書きのことではない。

手を汚さずに万年筆のインクを吸入する方法

年が明けた。今年も万年筆を大事に使っていく。相変わらず、カスタム74と色彩雫「紺碧」の組み合わせが気に入っている。最近、手帳用にフリクションのボールペンを購入したこともあり、万年筆の使用頻度はやや下がった観が否めないが、それでも手紙を書くときや、家でちょっとしたメモを取るときには万年筆を使いたくなる。今回は、万年筆を使う上で欠かすことのできないメンテナンスの一つ、インク吸入について、自分なりのやり方を紹介する。

 

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インクを吸入する上で特に気をつけなくてはいけないのは、インクをこぼさないことと、ペン先にダメージを与えないことだが、それらが当たり前にできるようになってくると、今度はいかに手を汚さないで作業を終えられるかということが意識に上ってくる。慣れないうちは多少なりとも指にインクがついてしまうものだ。不器用な人は何年経ってもこの作業がうまくいかない。厄介なのは、指についた万年筆のインクは染料のくせして、水洗いしても、石鹸で洗ってもなかなかきれいに落ちてくれないということだ。だからできるだけ指につかないように作業するのが望ましい。

 

万年筆歴6年半を超え、いよいよ扱いも慣れてきた。これまでインクを吸入した回数も百回では済まないはずだ。いろんな方法で試行錯誤して、オリジナルのスタイルに辿り着いた。では、早速吸入の準備に取りかかる。現時点で自分がいちばんきれいに吸入できる方法は次の通りだ。

 

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用意するものは万年筆、インク、ティッシュ2枚1組。万年筆は今回、カスタム74にコンバーターを装着したものを使う。もしあなたが強欲な壺でもないかぎり、ティッシュは1回のドローで十分だ。だいたいのティッシュは2枚重ねで1つの最小単位を成している。指を汚さないだけでなく、地球もできるだけ汚さないことが大事だ。今回は俺が普段から持ち歩いている小分け用のタミヤの角瓶から吸入するが、別に色彩雫の50ml瓶を使っても手順は変わらない。

 

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瓶の蓋を開け、万年筆のキャップと胴軸を取り外す。インク残量が半分を切っていたら吸入のタイミングである。あまり頻繁に吸入するのは薦めない。というのも、吸入のたびに無駄なインクを消費するからだ。塵も積もれば山となる。吸入の回数は少ないほどよい。かといって、ギリギリまで待ってから吸入するのは、いざという時のリスクが伴う。また、インク残量が少ない状態では、外気圧によってペン先からインクが漏れてしまうこともある。よって、半分を切ったら吸入するくらいがちょうどいい。

 

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片手に瓶を持ち、もう片方にペンを持つ。

 

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いざ、ペン先をインクに浸ける。漬け方が浅いときちんと吸入できないので、ペン先が全部インクに浸かるようにする。

 

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吸入元の方が残り少なくなってきている場合は、このように瓶を傾けて水面を上げる。

 

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少し見にくいが、これでペン先がすべてインクに浸かった。この状態を維持しながら、インクを吸入する。パイロットのコンバーター「CON-70」はプッシュ式で、コンバーターの頭にあるボタンを何回か押せばインクが入ってくる。スクリュー式の場合は少し器用さが要る。親指が上になるよう右手を持ち替えて、親指と人差指でコンバーターをつまみ、スクリューを回転させる。


 

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これは悪い例。ペン先の根本がインク面の上に出ているのが見える。これでは空気が入ってしまう。

 

f:id:ochsk:20180104153928j:plainインクが満タンになったら、ペン先をそっと引き抜く。まだインクがぽたぽたと落ちる可能性があるので、瓶の口から外へは出さない。

 

f:id:ochsk:20180104153930j:plain瓶の口の内側にペン先を擦り付けるようにして、ペン先についたインクを拭う。内側を伝って、余分なインクが落とされるのが見える。この作業は、ペン先の表裏を2回ずつで十分だ。拭えば無限にインクが出てくるので、ある程度でいい。

 

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その様子をgifで。

 

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さあ、ここからが最も難しいところだ。ここがいちばん指を汚しやすい。まずはティッシュを4回半分に折る。そうすることで厚みが出、インクが裏に抜けにくくなる。

 

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こんな風に持って、ティッシュの端のラインとペン先の根本が重なるようにやや強く押し付けながら、ペン先を回転させる。

 

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ペン先の根本にインクがかなり溜まっている。じんわりと押し付けてティッシュに吸い込ませる。

 

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裏面はパーツが黒いため、インクが目につきにくい。テカテカした部分はしっかり拭う。

 

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拭い方としては、押し付けて回転させる、押し付けて引く、の2種類がある。最初は回転させて大雑把に拭き取り、ある程度きれいになったら、引く方にシフトする。

 

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ペン先も拭えば無限にインクが出てくるので、きれいになったと思えば、そこで止めてよい。

 

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こんな風にティッシュに染みができるはずだ。ここまで汚れたら、新しくティッシュのきれいな面を用意する必要がある。

 

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汚れたところを上に向けて持って、

 

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半分くらいのところで内側に折る。

 

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きれいな面が現れた。折る度にティッシュは厚みを増し、より裏抜けしにくくなる。

 

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さっきのように持ち方を変える。

 

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今度はペン先の上の部分、黒いところを拭く。

 

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強く押し付けて、回転させながら拭く。

 

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きれいになった。

 

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気になったら、最後にもう一度ペン先を拭う。

 

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押し付けて引く。

 

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ここまで全く手を汚していない。 

 

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最後に、ペン先のわずかな汚れを拭き取る。

 

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ティッシュの余ったところで軽く撫でる。

 

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この通り、汚れなかった。

 

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胴軸をセットする。捨てる前のティッシュで、インク瓶の口や蓋の裏をきれいにしておくといい。

 

以上で吸入の作業は完了である。カートリッジ交換式ならこのような作業はもともと必要ないが、吸入式だとどうしてもこの作業がついて回る。いかに効率よく、きれいにやるかが大事になってくる。きれいにできると作業自体が楽しくなってくる。万年筆を使う上で、このインク吸入こそが最も楽しい作業であると言っても過言ではない。